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糖尿病と偉人の話

2024年NHK大河ドラマで「光る君へ」が話題となりましたが、その主人公のひとり藤原道長が糖尿病だったことを知りました。なるほど道長の肖像は肥満体型ですが、1000年もの昔から糖尿病があったことに驚きました。そこで、歴史の中でどのような糖尿病の偉人たちがいたのかをたどってみました。
まず藤原道長(966-1028)。50歳のころから口渇や無力感を訴えしきりに水を飲む様になったと「小右記」に記載があるそうです1)。糖尿病のコントロールが悪い症状です。視力障害を訴え糖尿病性網膜症を、また時々胸痛も訴え狭心症を合併していたようです1)。61歳の時背中に大きな腫物ができ、昏睡状態に陥り亡くなりました。免疫力の低下からちょっとした傷でも化膿しやすい糖尿病の症状で、これが原因で敗血症を起こし、多臓器不全で亡くなったとされています2)。貴族の生活は食生活が非常に贅沢で美酒美食に明け暮れ、また服装は動きにくく運動不足になり、日々の権力闘争でストレスも多かったと思われます。現代にも通じるライフスタイルと環境であったようです。
源頼朝(1147-1199)は糖尿病だったと言われています。糖尿病は昔、のどが渇き水を多く飲むため「飲水病」「口渇病」「消渇(しょうかち)」と呼ばれていました。「猪隈関白記」には「前右大将頼朝卿、飲水に依り重病」とあります2)。また「吾妻鏡」に歯の病に苦しんだ記載があり、糖尿病に発症しやすい虫歯や歯周病の可能性も考えられます2)。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では静止した馬から転落した場面がありましたが、脳卒中様の症状で亡くなったとも言われています3)。
織田信長(1534-1582)も「飲水病」を患っていました。「手足の痛みやしびれが強かった」という記録もあり糖尿病性神経障害と推測されます2)。戦国の武将たちは度重なる戦(いくさ)でストレスも多かったと思われます。
一方、徳川家康(1543-1616)は肖像画を見ると中年以降は肥満体、壮年期は下腹も出て、糖尿病の素因があったと言われていました2)。しかし家康は人一倍健康に関心が深く、暴飲暴食を避け、連日のように剣術、槍術、弓術を行い、鷹狩などの野外運動も心がけていました2)。徳川家将軍の平均寿命が51歳であるのに対し、73歳まで生きた家康は、食事療法、運動療法で糖尿病など生活習慣病を予防していたのかもしれません。
さて、明治以降は多くの糖尿病の偉人が出現します。
明治天皇(1852-1912)の糖尿病は有名で、47歳ころより発症され糖尿病性腎症から慢性腎不全を併発し崩御されたとのことです1)。
北原白秋(1885-1942)は52歳の時眼底出血で入院し、糖尿病の合併症であることがわかったそうです1)。売れっ子の作家になってから宴席も多かったようです。糖尿病性腎症も悪化しネフローゼ症候群を発症したと思われ、低蛋白血症による全身のむくみや胸水貯留による呼吸困難などを訴えていたとのことです1)。
幸田露伴(1867-1947)もお酒好きで長年糖尿病を患っていましたが、医者に行かずに庭に放尿してアリが集まってくれば糖が出ていると判断した、というエピソードが残っています。露伴はそれをきっかけに宴席への出席を断り、3食豆ばかりを食べ、健康を維持管理したといわれています4)。
そのほか経済界の重鎮の五代友厚、作家の夏目漱石、画家の岸田劉生など多くの偉人が糖尿病を患っていました1,2)。西洋に留学経験のあった人も多いことから、明治以降西洋文化の導入による食習慣の変化がその後の糖尿病の増加をもたらしたと思われます。
さて、私たちはこの偉人たちから何を学べるでしょうか?
はるか1000年もの昔からある糖尿病は、時を超えて今も変わらず増え続けています。そして時代に関わらず、贅沢な食事、運動不足、ストレスなどが糖尿病発症のきっかけとなり、偉人たちのような様々な合併症をおこします。一方その時代なりに予防をしていた偉人もいました。現代は糖尿病を起こしやすい環境が増え、昔以上に注意や摂生が必要となっています。偉人たちの生きた時代より医学は進歩しており、症状がなくても早めに糖尿病を診断し、生活習慣の改善とともに検査や治療を受け、合併症を予防することが大切ではないでしょうか。歴史はいろいろなことを教えてくれます。
参考元 (以下、参考にいたしました)
1)森 豊. 日本史の中の糖尿病. 遥か 4: 27-32, 2008
2)糖尿病だった有名人 https://www.club-dm.jp/novocare_all_in/novocare-circle/celebrity.html
3)源頼朝も口腔ケアを受けていればhttps://www.jda.or.jp/park/knowledge/yoritomo.html
4)豆と露伴と糖尿病 https://kuroe-sato.com/2017/03/09/post-1115/